精神障害そっくりの内臓疾患の症状には要注意!
病気の診断は、病院に行けば自動的に行われるというわけではありません。医師と顔を合わせて「今日はどうされましたか」とどのような症状に悩んでいるのかを聴く問診に始まり、聴診器を当てる聴診、触って調べる触診などを経て精密検査を行い、病名を特定する手がかりを増やしていくのです。
しかし、受診する医科が違えば医師は先入観から本当の病名ではなく別の病気を疑ってしまうことも少なくありません。こうなってしまうと治療効果が出ないまま通院し続けてしまうということもあるのです。
内臓疾患で精神科に行ってしまう可能性も
最近はうつ病患者の増加が深刻な問題になっていますが、精神面に症状が出る病気は精神病だけとは限りません。ホルモン分泌に大きく関わる内臓の疾患でも、精神面に症状が出ることがあるのです。
また、体調不良が長引けばそれだけで不安になってしまうことは少なくありません。この場合は体調不良の原因となっている病気を突き止めて、適切な治療を行うべきなのですが、内科に行かず精神科に行くと不安障害と判断されてしまう可能性さえあるのです。このように、精神面に症状が現れていても「精神病ではないか」と決めつけるのは早計である場合も少なくないのです。
肝臓疾患でうつ病そっくりの症状が出る
代表的な内臓疾患による精神面への影響では、肝性脳症による性格変化や意識障害が挙げられます。
肝性脳症は肝機能の低下によって発生するもので、たんぱく質の分解によって発生したアンモニアの血中濃度が増大することが原因の一つと考えられています。
肝性脳症では、人格・性格の変化、時間感覚や方向感覚などの見当識の障害、睡眠リズムの逆転、計算能力・書字能力の低下といったうつ病にも見られる症状が発生します。
酷い時には幻覚を見てしまう「せん妄状態」になってしまうこともあり、最終的には昏睡状態に陥り周囲に反応を示さなくなってしまうのです。
腎臓病はイライラを引き起こす原因に
血液の濾過と尿の産出を行う腎臓には、カルシウムの吸収を促すビタミンDを作る働きがあります。カルシウムには精神を安定させる働きがあることはご存じの通りですが、腎臓病で腎機能障害を起こすとビタミンDの生成が阻害されてカルシウムの吸収が低下してしまいます。
カルシウム不足は骨の弱体化だけでなく精神面にも影響を及ぼします。カルシウムが足りないとイライラが募り、不安障害と同じ様相を呈してしまうのです。
末期のがんではせん妄が起こる
がん患者は、病状の進行とともにせん妄状態を引き起こすことがあります。がんによるせん妄は強力で、時には点滴の管を引き抜いてしまうことさえあるのです。
特に終末期に達したがん患者がせん妄状態に陥る率は9割近くにまで跳ね上がるといわれ、がん患者のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質、QOL)の低下の原因にさえなってしまいます。
膵臓機能の低下も危険
糖尿病や膵臓がんなどの、インシュリンの分泌に関わる病気も精神障害のような症状を示します。
低血糖状態に陥ると、まずあくびや吐き気などが起こり、その後に計算能力・書字能力等の低下や無気力などうつ病のような症状が現れます。さらに血糖値が下がると異常行動や意識消失を起こしてしまいます。
高血糖状態になると、体のだるさや強い空腹感・喉の渇きを覚え、強い眠気を感じてしまうようになります。
膵臓機能が低下している患者はインシュリンの自己投与などで血糖値をコントロールしなければならないため、このような症状に頻繁に襲われることになるのです。
自己診断で安易に医科を決めない
このように、内臓疾患でも精神障害のような症状がみられるケースは幾らでもあります。しかし、「沈黙の臓器」と言われる肝臓・膵臓のように、身体的な症状を見せないまま病状が進行し、精神的症状が先に出てしまうことも少なくありません。
適切な治療を受けるためには、総合内科のような総合的な判断が出来る医科を受診することが欠かせません。患者が自己判断で「こういう症状なので○○病だと思います」と医科を受診するのは、逆効果になる場合も少なくないのです。