ピロリ菌の存在が胃がんの発生に関与する
ピロリ菌ことヘリコバクター・ピロリ菌は、入ってきたものを胃酸で溶かしてしまう胃の中でも生息できる性質を持ったらせん形の細菌です。
19世紀末にはその存在が確認されていたものの、その働きなどは100年以上たった1983年まで解明されなかったという曰くつきの細菌ですが、逆に言えば現代において最もホットな研究対象であるとも言えます。
ピロリ菌が胃に生息していると胃潰瘍になるといわれていますが、胃がんの発病原因としても大きく関与することが最近の研究でわかってきたのです。
ピロリ菌の分泌するたんぱく質が胃の細胞を初期化する
胃酸の分泌によって強酸性に保たれている胃の中ではどんな細菌でも生きていくことは出来ないものですが、ピロリ菌は例外的に胃の中で生息することが出来ます。
まず、ピロリ菌はアンモニアを生産して自分の周りに放出することで胃酸を中和することが出来ます。これによって胃の中で長期間の生息を可能にしていくのですが、胃酸の濃度が高いといくらアンモニアを生産しても間に合わなくなってしまいます。
そこでピロリ菌は特殊なたんぱく質を生産して胃の粘膜を破壊し胃酸の生産能力を低くし、胃酸の濃度をコントロールしていくのです。
胃の粘膜が破壊されると炎症が起こり、胃潰瘍に繋がってしまうというわけなのです。
そして最近分かってきたのが、ピロリ菌が生産する特殊なたんぱく質が胃の細胞の遺伝子に作用して、胃の細胞を初期化するという働きなのです。
初期化された細胞はどんな臓器にでも変化する
ピロリ菌によって初期化された細胞は、「幹細胞」と呼ばれる特殊な細胞に変化します。幹細胞とはあらゆる臓器や器官の元になる性質を持った細胞で、今注目されている再生医療の要となるものです。
しかし、幹細胞はどんな細胞にもなる性質を持っているため上手にコントロールできなければがん細胞化する危険性があり、再生医療の実用化に向けての大きな課題にもなっています。
そしてピロリ菌によって初期化された幹細胞は、コントロール下に置かれないまま高酸性の胃粘膜の中に置かれるため正常に分裂・成長することが出来ず、がん細胞になってしまうというわけなのです。
また、ピロリ菌の生産するたんぱく質は巧妙に人間の細胞が発生させる無害なたんぱく質に偽装されるため、体内に潜入しても免疫機能が反応しないという性質があります。
ピロリ菌の除去が胃がんの予防に効果を示す
このように、ピロリ菌の生息は胃がんの発生リスクを高める原因となってしまいます。そして、日本人の多くに生息するピロリ菌は「強毒性」と呼ばれる、力が強いたんぱく質を生成するタイプのピロリ菌なのです。
昔から日本人には胃がんが多く、味噌汁などの塩分が強い食事が胃がんの原因であると長年言われてきましたが、食事よりもむしろピロリ菌の方が胃がんの発病リスクに大きく関わっているのです。
胃がんの予防には、ピロリ菌の除去を受けることが重要です。ピロリ菌除去治療は、保険適用外ではあるものの薬の服用で済ませられるので、会社・学校を休むことなく除去を行うことが出来るのがメリットといえます。
胃潰瘍に悩まされていない人でもピロリ菌の除去は一考の価値があるのです。